まるでチューリップかなにかを思わせるシェイプのこの謎のギター、皆様ご存知でしょうか。このギターのオリジナルは、1966年JMI社がVOXブランドの新製品として楽器ショウの為に製作したプロトタイプ・ギターで"Kensington"という名のギターで、ジョンやジョージが手にした、という逸話のあるギターです。詳細は下記「Kensington; A Short Story」をお読みいただければと思いますが、このギター、製品化はされておらずまさに幻のギターなのです。その実物のギターを見る事すら、もはや不可能かもしれません。

 どうしても手に入らないとなると、どうしても手に入れたくなってしまうのが人情。そこで、無謀にも当クレーンギターズは独自の企画/プロデュースという事で、この「幻のギター」を復刻してしまおうと企みました。今回のプロジェクトのためにカスタム・オーダーしたスイッチを含め、数多の難題をなんとか乗り越えて、やっと実現の運びとなりました。クレーンギターズ・オリジナル KENSINGTON SPECIAL の初回生産はわずか2本(!)ですが、ビートル・フリークにとってまさしく必見のこのギター、現在、この感動的な初号機をクレーンギターズ店頭にて見ることが出来ます。興味をもたれた方は、どうぞお早めにご来店くださいませ!

 




    CRANE GUITARS presents
KENSINGTON SPECIAL

SPECIFICATIONS
Neck : Mahogany 1P (set neck)
Tuners : Grover Open type
Fingerboard : Rosewood with
Ebonywood Inlays
Scale : 565mm
Body Top : Laminated Mahogany
archtop (single bounded)
Body Back : solid Mahogany with
Hollow Chamber
Pickup : Alnico5 Single coil PU x 2
Controles and switsches : will be
assigned each other by the built in
effectors' choice
Case : Custom made hard case
(fake croco-leather)


価格: ASK
お問い合わせはクレーンギターズまで




 オリジナルのVox Kensingtonの資料は、殆どないに等しいのが現状です。そこで、クリスティーズ・オークションに出品された際の写真数枚と、ジョンがリハーサルで使用している際のスチール・ショット数枚から、推測を交えて採寸しました。ジョンとの比較や、オークションでスタッフが手にしている写真から考慮し、ショート・スケールであることが分かりました。一般にショートとされる610mmなのか、それともRickenbacker 325のようのウルトラ・ショート・スケールなのかは判別が難しい部分ではありましたが、ピックアップやサドルのことを考慮し、その真ん中、ということで565mmという変則的なスケールを採用しています。このことで、ピックアップやブリッジのピッチの問題をクリアしました。

 

 

 オリジナルのKensingtonは「マホガニー・ボディのチェンバー構造」という文献が残っていますので、今回はそれに倣うことにしました。VOX製のホロウ・ギターと言えばSuper LynxやMarkVI Acousticといったモデルがお馴染みかと思われますが、それらのボディ・バックには(他にも60年代のグレッチのギターでも採用された)バック・パッドを備えているものが殆どなので、今回も最後までそのパッドをつけようかどうしようか悩みどころではありましたが、オリジナルはあくまで「英国で生産されたプロトタイプだ」ということを念頭に、パッドをあえて付けていません。

 また、極めて不明瞭な写真からの判断ではありますが、ジョイントの形状から、セットネックであろう、と判断し今回はそれを採用しています。その点も当時の(特にイタリア製になってからの)VOXギターとは構造上異なる部分でもあります。指板はローズウッドで、エボニーウッドのスクエア・インレイが施されています。


 ボディ・トップは1cm強のアーチがかかったアーチトップです。ボディ幅はテレキャスターよりやや大きい345mm、ボディ厚は50mmというサイズです。

 右は各部詳細写真です。ブリッジはJaguarタイプのものを流用しましたが、この反り返ったエングレイヴが特徴的なサドルとテイルピースはローズウッドの削りだしで、勿論手作りです。テイルピースにはクリア・プレート板がはめられています。この部分は、オリジナルではVOXのロゴが入ったプレート板がはめられているのですが、本家同様にビス2本で簡単に取り外せるようになっています。

 ピックガードもローズウッド単板からの削りだしで製作してあります。また、フトントPUの近くにあるレバー付きノブも、手作業で作りました。このノブを含め4つのノブは全てアルミ削りだしのノブで、クロームメッキがかかっています。

 

 

 さて、こちらが今回のKensington復刻のためにカスタム・オーダーによって製作された国産プッシュ・スイッチです。内蔵エフェクターに関してはここでは公開していませんが、サンプルとして初号機には「VOXといえば」誰もが思い出すであろう、王道の歪み系エフェクトを内蔵してあります。このカスタム・スイッチは、6つのスイッチすべてがON/OFFの切り替えが可能なタイプと、ひとつをONにすると他がOFFになるタイプ、の2種類を用意してあり、内蔵されるエフェクターの種類によってどちらかを選択してサーキットを構成します。詳細は店頭までご相談ください。(内蔵エフェクターはかなり難度の高いサーキット構成になります。よって実現可能なエフェクターの組み合わせには限りがあります。詳細は店頭までご相談ください)


 特製のハードケースはワニ革を模したフェイクレザー仕様のハードケースです。クロコ柄、と言えばビートルズ・フリークにとっては英セルマー社がHOFNERやその他の楽器用に用意したケースを想像される方も多いと思われますし、セルマーといえば「Treble'n'Bass」なんていう素晴らしいクロコダイル柄のアンプがあったことも思い出されるかもしれません。そんな英国の歴史と野心を感じさせるケースに仕上がりました。

 以上、今回のスペシャル・プロジェクトをかいつまんで紹介しましたが、このギターを初めて抱えた瞬間の感動は例えようの無い程です!! 予定売価はさすがにかなりの高額と言わざるを得ないものになってしまいましたが、その分の満足度は何物にも代えられません! ご興味を持たれた方は店頭まで是非ご一報ください。

 





 1966年イギリスの楽器展示ショーにて、JMI社(VOXブランドを持つ会社)は奇妙なギターを出品しました。「Kensington」と名付けられたのそギターは、まるでチューリップのような奇怪なボディ・シェイプがひと目で印象的なプロトタイプのギターでした。その時の写真が右の白黒写真なのですが、このプロトタイプをハンドメイドで製作したのは英国のVOXファクトリーの技師、マイク・ベネットという人だそうです。

 別なVOXの設計技師ディック・デニーによれば、そのプロトは合計2本製造されたとのことですが、別のソースでは「1本しか存在しない」という証言もあったりします。正確なことは不明ですが、いずれにしろこのギターはその後生産されることもなく、世の中に存在する「Kensington」はそれしかありません。そしてそのKensingtonは一度VOXファクトリーに戻され、同時期に開発されたビルト・イン・エフェクトを持つVOXのソリッド・ギター「Marauder」と同じ回路に改造され、その後1967年にディック・デニーからビートルズへとプレゼントされています。

 展示会に出品された時点での「Kensignton」は、PUセレクター・スイッチと2ノブ、トップにアウトプット・ジャックを備えたパッシブ回路仕様でしたが、ファクトリーで改造された際には6つのプッシュ・ボタンとノブが2ケ追加され、ジャックはボディ・サイドに移植されています。Vox Marauderのエフェクトと同じ回路、と想定するならば、6つのプッシュ・スイッチにはそれぞれ「トレブル(プリセット・トーン1)」「ベース(プリセット・トーン2)」「トップ・ブースト」「ミッド・ブースト」「ファズ」「リピート(トレモロ)」の6つがアサインされていたと思われます。

 

 

 1967年9月18日から24日にかけてビートルズは「Hello Goodbye」のビデオ・シューティングを行っていますが、そのリハーサルにて、ジョン・レノンはこのギターを使用しています。また「I Am The Walrus」のビデオ・リハーサルでは、ジョージがこのギターを手にしています。とはいえ、いずれも所謂「アテフリ」だったそれらのリハでは、そのギターの音は必要とされていませんでした。また結局本番ではこのギターはお目見えすることはなく、ジョンはビデオ本番ではMartin D-28を使用し、ジョージもストラト「Rockey」を使用したことは周知のことかと思われます。

 このVOX「Kensington」は、その後アップルのスタッフ、マジック・アレックスにプレゼントされます。時が経ち2004年、イギリスのクリスティーズ・オークションにこのギターが出品されました。世界中のニュース・メディアが注目する中、そのギターは2004年5月5日に117250英ポンド(当時のレートで日本円にして2500万円程)で落札されました。



(写真上)1966年の展示会に出品された際のVOX Kensington。
(写真左上)ビートルズの「Hello goodbye」でのリハーサル・ショット。
(写真左下)2004年、クリスティーズに出品された際の写真と、そのニュースを伝えるBBCニュース・ウェブ。




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